SIDS家族の会オープンフォーラムin富山 抄録

2010/07/03

2010年5月15日

失った悲しみを支える

セルフヘルプ・グループのちからと、サポート・グループの存在

小さないのち 坂下 裕子

 

1. 赤ちゃんを失う 昔と今

子を失うかなしみは、今も昔も、大昔も、変わりないことを、まず文献を通して確認したいと思います。

例えば、100年昔に生きた世界的哲学者・西田幾多郎も、1000年の昔を生きた歌人・紀貫之も、現代の遺族と何ら変わらぬ言葉を残しています。

ただ、昔と今で違うとしたら、「子どもは元気に生まれ、大きく育つもの」という常識の中で暮らすようになったことだと思います。

ですから現代の当事者は、「なぜ私(の子)だけが」という思いに包み込まれます。これは、喪失と孤独、二重の苦しみといえるでしょう。

 

2. わが子との別れ

娘の死後、私も孤独に包まれました。日を追うごとにかなしみは深まり、意を決して頼った先は、娘を看取った主治医でした。

けれども小児科医にどうすることもできず、せめてほかの遺族を紹介してほしいという願いも適いませんでしたが、このときの脱力が跳ね返り、私は遺族会を立ち上げました。

11年の間に出会った方々から教えてもらったことは、失った存在が与えてくれるちから、挫折体験から蓄えるちから、セルフヘルプが生みだすちから、でした。

 

3. セルフヘルプ・グループ

セルフヘルプ・グループには、「自発的に結成された相互援助と特定の目的の達成をねらった小グループ」という定義がありますが、遺族会では、目的は掲げても達成を目指さないことがほとんどです。

つまり、心の回復を目的としながらも「かなしみ」は排除すべき位置にはまったくありません。「かなしみと共に生きる」ことや、「あなたは、あなたのままで、いい」という理念を保っているのが遺族会だと思います。

そのほかの特徴には、
①共通の体験をもつ
②主体的に参加する
③関係性が対等である
④安全な場所をもつ
⑤他の組織から独立している

などが挙げられます。私が運営する「小さないのち」は、セルフヘルプ・グループです。

 

4. サポート・グループ

セルフヘルプ・グループが当事者のみによって運営されているのに対してサポート・グループは、当事者以外の人(専門家など)によって運営されています。

私は、「小さないのち」ではセルフヘルプの質を重視しながら、また別のところで、サポート・グループの運営に関わってきました。

病院でNICUのスタッフとわかちあいを運営したり、市民団体の方々と流産・死産体験者のためのわかちあいを運営したりしており、その実践を報告したいと思います。

 

5. おわりに、今後の課題として

セルフヘルプ・グループにも、サポート・グループにも、長所と短所があります。

セルフヘルプ・グループには、2つの誇れるちからがあります。
1つは、「ヘルパーセラピー原則」といい、支えられる側以上に支える側はエネルギーを得ます。
2つめは、「体験的知識」が豊富であることです。多くの当事者の、体験や、知恵や、声を、いっぱい蓄えています。

一方で、子どもの遺族会をセルフヘルプ・グループとして運営する一番の弱点は、スタッフが育ちにくいことだと感じます。

もっとも弱った状態の人が集う場であるから、という理由だけでなく、少し元気になれば育児や出産に立ち向かう使命がある、そういう世代のグループがもつ宿命でしょうか。

その点サポート・グループのスタッフには、人材が揃っていますので、安定した運営が維持できるでしょう。

個々の専門性にも期待できます。それぞれに活動を充実させ、今このときもつらい思いをされている方々のかなしみを共に支えていけるよう、互いに研鑽を積んでいきたいと思っています。

 

発表中に何度も使う「かなしみ」という言葉ですが、悲しい感情だけに限りません。「愛しい」と書いて「かなしい」と読みます(広辞苑参照)。

あかちゃんを失ったお父さんお母さんが、心置きなく愛情が語られることを願いつつ、お話ししさせていただきたいと思います。