会報 No.72
2011/08/04こころの扉(会報72号)
平成20年2月
発行 小さないのち
会員 東城なおえ
今年に入ってグッと冷え込み寒い日が続いています。この季節は不安な気持ちでお過ごしの方も多く、春が待ち遠しい時期でもあります。
私は2004年10月2日、当時2歳5ヶ月の男の子、菰淵葉(こもぶち よう)をウイルス性脳炎による急性脳症で亡くした母親です。
1年後の2005年11月、遺品のひとつとしてカルテを取得しようとしたとき、病院から親子であることを証明する戸籍謄本の提出を求められました。
ところが、都内の区役所にある戸籍には、葉が生まれたことも亡くなったことも記載されていませんでした。2005年7月に戸籍が電子化されていたためです。(この場合、平成改製原戸籍という昔の戸籍を取り寄せれば事務手続きはできます。)
2006年秋の「小さないのち」会報64号で【子どもの名前と存在に関するアンケート】を実施いたしました。電子化された戸籍から子どもたちの名前が削除されている件では、数多くの会員のみなさんが悲しい思いをされていることがわかりました。
その後、2007年5月31日に法務省と、ちょうどその時期に電子化が決まっていた神奈川県川崎市へ「削除された子どもたちの名前を記載することを求める要請書」を提出しましたが、残念ながら何の検討をされることもなく要請拒否の回答が返ってくる結果となりました。
そんな中で、少しずつではありますが、関心をよせて下さるマスコミが増え、各社新聞記事やフジテレビの【めざましテレビ】、TBSの【噂の!東京マガジン】など、テレビでも番組内で取り上げていただく機会が増えました。
先月、1月11日に発売されたタレントの風見しんごさんの著書【えみるの赤いランドセル】は、お嬢さんを交通事故で亡くされて1年目の手記ですが、こちらでもこの戸籍の件を取り上げて下さっています。
また、関心を示して下さる政治家も増え、内閣委員会や各自治体の議会で取り上げられるようにもなりました。
そうこうしているうちに、いつのまにか葉と離ればなれの生活も3年を迎えようとしていました。普段は考えないようにしていますが……自分の命よりも大事であったはずの息子の葉の命はもう戻ってきません。認めたくありませんが事実です。
しかし毎日、葉のことを考えない瞬間はありませんし、元気でいた頃の思い出、元気でいてくれたらしていたであろう様々なことを想像しながら心の中で語りかけ、日々を過ごしています。
私の行動は「戸籍に執着して何が何でも記載を!」という盲目的なことではなく、このような処置によって辛い思いをしている国民が「存在する」ことを知ってもらうこと。
そして、変更の可能性を「面倒がらずにきちんと話し合ってもらうこと」を求めていきたいと思い声を上げてきました。何ものにも代えがたい大事な我が子を失った家族の思いをどうしても伝えていきたいと思ったからです。
昨年11月。賛同して下さる議員のアドバイスもあり、川崎市議会に陳情書を提出いたしました。小さな私たちの声をまず聞いていただき、ゆくゆくは国に働きかけていただくための第一歩としての陳情です。
「小さないのち」のHPや掲示板からご覧になった方もいらっしゃると思いますが、そのための署名も集めました。
http://www012.upp.so-net.ne.jp/koseki/
ウェブと自分の知人をまわってお願いするという、とてもゆっくりとした署名活動ではありましたが、みなさんのご協力のおかげで、私を含め6,193名の署名が集まりました。署名は全て提出し、無事に受理されています。
ひとりの力は微力でもその小さな力が集まると、とても大きく力強いものに変わるのだと実感しました。人から人へ。気持ちはいつか必ず伝わるのだという希望がわいてきました。
送られてきた署名に添えられた全国の方の言葉をいくつかご紹介します。
- 想いが叶ってくれればと思い、みんなに書いてもらいました。これだけ賛同してくれるということをわかってもらい、願いが届くことを祈って。
- 期日ギリギリになってしまいましたが、少しでもお力になれたらと思いペンを取りました。皆さまの想いに加えていただければ幸いです。
- 署名活動の話を聞き大変心が痛み、微力ながらできるだけ多くの方にこの事実を知ってもらい、応援したいと参加させていただきました。お子さんをなくされ、追い打ちをかけるような今回の電算化でのショック。周りの友人に署名をお願いしましたら皆口々に我がことのように怒り、胸を痛めております。この署名で改善が図られることを祈っています。悲し
- みに触れ、応援してる人がたくさんいることを知っていただき、明日の生きる力にしていただきたいと願っております。
- 何もできませんが、戸籍電子化問題について疑問に思っています。頑張ってください。
- 皆さんからの声が1日も早く届くことを心よりお祈りしています。
- うちの子も同じように抹消されているかもしれない。こんな事実は全く知らずショックだった。
- 私の亡くなった兄も戸籍から抹消されているのかもしれないという事実を初めて知り、涙が止まりませんでした。
- 朝日新聞関西版をみてからずっとずっと気になっていました。今回の署名が少しずつ広がることを祈りたいです。
- 自分も含め周囲の人間も今回のことを初めて知りました。全く知らなかった…..。事実を知りショックではあるが、今後の改善を早急に望みたい。家族との繋がりを大切にできる世の中であって欲しいと願い、子どもたちに教育の現場に属する者として伝えていきたい。
- 【めざましテレビ】を見て初めて知りました。微力ですが協力できればと思います。
- こんなことがあってはいけないと思う。
- 1日も早く改善されることをお祈りします。
- 同じこどもを持つ親としてやりきれない気持ちでいっぱいです。
- 今後に繋がる道はまだまだかもしれないですが頑張ってください。これからも何かあれば協力していきたいです。
- 行政の対応の悪さは何ともいえない。曽遊に改善されていくことを祈るばかりです。
- 「テレビでやっていたね」と家族みんなで話しながら署名しました。多くの方の心が届きますように。
- 願いが届きますように。
- 微力ながら集めさせてもらいました。友達の少ない私ですが、人から人への活動の輪が広がり、思いのほかたくさんの方に協力していただけました。今回のことで人の優しさに触れことができました。みんなの想いが、頭かちかちのお役人の心を動かせる日がくると信じて、願ってやみません。
会の皆さまが少しでも心穏やかに過ごされますよう、今後も何らかの形でご協力させていただきたいと思っています。お身体に気をつけて。 - 「小さないのち」のみなさま、微力ながらお役に立てれば幸いです。皆さんのお気持ちが議会に伝わり、決議されることをお祈りしています。
- 今は大変だろうけれど、たくさんの人たちが応援してくれているので頑張って。
- 想いが届くよう心から願っています。少しですが協力させていただきます。
- 私は2005年1月26日に女の子を出産し同年2月23日に病気で子どもを亡くしています。子どもの記録記載がなくなってしまうなんておかしいと思います。もう亡くなったら家族でないと言われているような気持ちになります。亡くなっていても家族です。私は母親です。亡くなった家族の戸籍が新戸籍に移記してもらえ
- ることを祈ります。時間がなく、少ししか署名を集めることができませんでしたが、ほんの少しでもお役に立てればと思います。
- 微力ながら協力できれば、と想い署名しました。皆さんお気持ちが議会に届くことをお祈りしています。
- 署名を送ります。あれから会う人に戸籍電子化の話しをしています。HPを教えたりとかもしています。多くの署名が集まり、陳情が通ることを願っています。
- 署名を送らせていただきます。今後も頑張ってください。
- 愛する家族を失い、悲しみに包まれていらっしゃる方々が少しでも救われ、ひとつでも多くの笑顔を取り戻すことができるよう心よりお祈りいたします。
- 友人たちにもお願いしています。後日お送りいたします。
- ほんの微力ではありますが家族の分の署名をお送りします。活動頑張ってください。
- ブログで知りました。皆さまの想いが願いが必ず届きますよう信じてお祈りしています。
- 署名をお願いに行くと「がんばってね!」「負けないでね!」と声をかけていただいたりと、逆にこちらが励まされました。
- ひとりひとりの温かく強い想いがどうか国へと届くことを願っております。
- 皆さまの活動を応援しています。私自身も小さい子どもを亡くした母親ですので、力になれる限り協力したいと思っています。友達からも署名をもらいました。少しでもこれが役に立てばと祈っています。
- 川崎市をはじめとして全国的に子どもたちの生きた証しが残ってくれることを願います。
- 少しだけど協力させてください。
- たいしたことはできませんがこれからもできることがあれば一緒にがんばっていきたいと思っています。
- もともと戸籍反対論者ですが送ります。この論点を広めていくには長い時間がかかると思いますが、機会があれば周りにも話をしていきたいと思っています。犬と一緒にしないで、と思われるでしょうが、先日新しい子犬を初めて獣医に連れて行ったとき、7月に亡くなってしまった愛犬と同じ番号の枝番をつけてくれて、カルテも同じファイルに一緒にして下さったのを見て、この問題はこういうことなんだと想い胸が熱くなりました。誰かに覚えておいてもらえること。自分以外にも彼女の存在を認めてもらえること。それが、どれほど慰めになるか。悲しいかな、失ってみないとなかなかわからないものなのかもしれません。
- 数は少ないですがお役に立てれば幸いです。がんばって下さい。署名してくれた友人たちも心より応援しています。
- 会社に持っていくと思いのほか協力して下さる方がいらして、いつの間にやら80名以上になりました。私自身、皆さんの温かい気持ちがとても嬉しかったです。まだまだ数としては足りないと思いますが、少しでもお力になりますよう、影ながら応援しております。
- 私自身はあまり集めることができなかったのですが、友人が、そしてまたその友人や知人が…と署名の輪が繋がって、たくさん集めてもらうことができました。署名を通じて人の温かさや色々なことに気付くことができました。
- 間に合いますように!少しでも想いが届きますように!
- 会社の同僚にも署名をもらいました。
- 子を亡くした親もしかり、きょうだいを亡くした子どもたち、あるいは親を亡くした子どもたち、配偶者をなくした人。どのケースもこの電子化での削除はあってはならないことと思います。
- 最初は説明もままならずでしたが、昨年9月の新聞記事をとっていたので見せながらほんの少しですが50名の署名を集めることができました。この結果がいい報告としてブログに載ることを楽しみにしています。
- 市議会で私たちの気持ちが伝わることを祈っています。
- 審議には出席できませんが、遠く大阪より私たちの想いが通じることを祈っています。
- この度、友人から新聞記事と署名用紙を送っていただき、微力ながら協力できればと僅かですが署名を集めました。もう少し時間があればもっと集められたと思うのですが、開始が遅かったためすみません。
- たくさんの想いが叶うことを願っています。
- 少しでもお役に立てたら嬉しいです。みんなで応援しているのでがんばって下さいね。
- 署名、少しですが送ります。集めるにあたり、やっぱり子どものことを話さなければならないことで私自身しんどくなり、限られた人にしか頼むことができませんでした。
- 調べたところ、私の住んでいるところは平成18年10月14日に電子化になっていました。私はまだカルテをもらいに行けていません。あの病院に行くことすらできていません。きっともらうときは、この電子化された戸籍の件で市役所の方とお話をするのだろうと思うと尻込みしてしまいます。
- 今後も私たちの声が多くの人に届くことを祈っています。
2008年2月6日水曜日午前11時。
川崎市議会市民委員会によって【戸籍電子化前に除籍された家族の名を新戸籍に移記することに関する陳情】について討議されました。
かなりきつい意見が出ることも覚悟しながらの傍聴でしたが、委員の方々のできる限り私たち遺族に寄り添うよう努力してくださる発言からは、思いがけず勇気を分けていただいたように感じました。
内容的には、さまざまな角度から意見が出される価値のある審議になったと思います。ただ、このとき私は小さなミスをしたことに気付きました。
このような陳情書の作成は初めてでしたので、「国への意見書提出を希望する」という一文を入れていなかったのです。しかし、こちら側の意図を組んでくださり、この日は可決しなかったものの、次回に向けて国への意見書提出を前提とした継続審査となりました。
その1週間後。
2008年2月14日木曜日午後12時30分。
再び、審議が開かれました。川崎市独自での移記は難しいと判断されましたが、希望者には電子化された戸籍に死亡し除籍された家族の名前の記載を認めるよう求める意見書を国に提出する方針が決まりました。後日開かれる定例会で可決する見通しです。
昨年、市長に提出した要請書の回答より一歩進んだ形になりました。自治体側の「電子化の際に記載を省略されたものを国の通達なしで書き加えることはできない」という姿勢は崩せませんでしたが、「市が独自にできないのであれば、国に働きかけるべきだ」という委員の多くの意見に後押しされたように思います。
実は、法務省は「電子化前なら記載可能」という発言をしているようです。電子化になる前に動けば、いい結果が生まれるかもしれません。
今回の審議でも市民局は「電子化前にこういう話があればできたのに…」というような主旨のことをおっしゃる場面がありました。
また、「小さないのち」会員ではありませんが、兵庫県播磨町のお母さんが同じように町議会に請願書を提出し、いち早く国への意見書を提出しているようです。
今後も相互理解を深め、国への働きがけのためになんとか声を上げていくきっかけになるよう努力を続けていきたいと思います。
今回、初めて議会の傍聴というものを体験したのですが、審議のやりとりを聞いていて、ある弁護士さんの言葉を思い出しました。
「法律は一般常識からかけ離れたヘンなものであってはならない」
「それには、IQ(知能指数)に代わる、EQ(感性の知能指数)が大事」
私自身、人の心がだんだん忘れられて効率化ばかりが重んじられ、機械的にしか物事を考えられない世の中で「葉には、絶対そんな人間になって欲しくない」と考えていました。
我が家には現在生きた子どもはいません。ですが、今でも私はひとりの親のつもりでいます。親としてできることを国に伝えていきたいと思っているのです。
最後になりますが……。「国への意見書」を提出するにあたり、「どこまでの家族をなくした人を対象にしていくか」など、審議の席で細かい意見が出ていました。いくつか規定を提案していく必要性も感じています。
ご意見、ご質問、ご相談がございましたら御連絡いただき、みなさんの意見を反映していけるといいなと感じています。どうぞよろしくお願いいたします。
http://www012.upp.so-net.ne.jp/koseki/
http://blog.so-net.ne.jp/leaf_20020403-20041002/
〈以下省略〉