子どもの脳死移植

2004/06/20

 現在日本では、15歳未満の子どもの脳死移植ができないことについて議論が繰り返されています。

 あゆみが脳死状態だったとき、夫に不意にこんなことを言ったことがあります。
「もしも脳死移植ができるなら、あゆみちゃんの心臓だけどこかの子の体の中で生きつづけることができるのにね」。
夫は、怒ったように返しました。
「あほなこと言わんとってくれ!眠ってるとしか思えないこの子の体から心臓とり出すやなんて、そんなこと、できるわけがない」。
めったに声を荒げるなどない人だけに、びっくりして、もうこの話題は口にしませんでした。
あゆみの心臓は、その1週間ほどのちに静かに鼓動を止めました。

 それから数年たち、もう一度夫に尋ねてみました。
「もしも大樹が脳死移植を必要としたら、提供してもらいたいよね?」
夫は、長く長く考えて、答えました。
「いや、それは頼まれへん。あゆみの心臓はあげられへんかったから」。

 また何年かのち、息子と何かの会話をしていたとき、その話題に触れることになりました。
「夫婦でも両親であっても、子どもに対する考え方が違うときがあって、例えばずっと前、脳死移植の話をしたことがあったんだけど〜」
このあと、息子がそんなことを言うとは思いもしませんでした。
「ぼくやったら、もしも命が助からないということになったら、まだ元気に使えるところはほしい人にあげてほしいな。焼いてしまうのは惜しいと思う。でもお父さんの気持も無視できへんな… だって、ぼくは自分のことははっきり言えるけど、ぼくの子どものことやったらまた別やから」。

 11歳の子どもは、自分の命のこと、自分の体のことは、考えをもって言葉にできるのだと知りました。もっと多くの子どもたちから、それぞれの考えを聞いてみたいと思いました。大人はもっと子どもの声を直接聞くことを考えなければ。国会に子どもたちも登場させてはどうかと、本気で私は思っています。