情けは人の為ならず
2018/08/12 グリーフケアの講座は、さまざまな分野に広がっている。
これは、小中学校などの教員対象の研修の場だった。
グリーフケアは、解説だけではピンとこない。
実際例、体験者の声がとても大事。
なので私は、体験発表に呼ばれた。
ある被害者遺族の方と一緒に。
解説が行われている間、後ろのほうで待機していた。
私も解説を聞いていたが、途中から、
1人の受講者が、気になりだした。
解説の間じゅう
スマホを隠すように手にし、見入っている。
ときどき、遅れてレジュメをめくり、
どこまで進んでいるのかさえ理解できていない。
休憩時間になり
私、だいぶん迷ったが、思い切って
その人物のところへ行った。
小さい声で、誰にもわからないよう、耳元で。
「スマホ、してますよね」
はっ、と思って、もうやめてくれたら良かった。
ところが、そやつ
「いいえ」と言う。
はぁ?
おまえ教師だろ?
生徒の前でも平気で嘘ついてるんか。
これ言っていない。心の中のこと。
心の中で、私キレそうになった。
が、小さい声で、静かに言った。
「聞けていないと思いますよ」
「いえ、聞いていましたよ」
てめー!
今度はキレた。心の中でですが。
言い方は、静かにしておいた。
「チャイム鳴ったら、スマホしまっていただけますか。
そういう人に体験発表するの、つらすぎます」
「わかりました」
被害者遺族、どんなにつらく苦しいだろう。
暮らしを営み、毎日を生きていくことさえ。
さらに大勢の前で言葉にするのだから。
善意だけで貢献してくれている。
本物の理解、支援が広がってくれるようにと
それだけを願い。
迷ったが、やめさせて良かったと思った。
そして、発表に聞き入った。
次は私の番。
例の教師、ちゃんと前を向いている。
私だって、つらい。
私には私のつらさが、今もある。
彼女のために、ではなく
私自身のために言いに行ったのかもしれない。
あゆみのこと、自分のグリーフを語りながら、
そう思えた。