インフルエンザ脳症はビスケット丸呑みで起こると思った私
2009/11/01 ある病気のため、治療中の子どもに付き添っているお母さんから
入院中の不安を聞いていると、
不安は、子どもの病状のことだけではない。
なんと、先生の顔色だと言う。
どういうことを言うと、先生が不機嫌そうな顔をするか。
詳しく聞いてみると、同じことを何度も尋ねたり、
先が見えない中、大丈夫ですよね?大丈夫ですよね?と
いい知らせを聞きだそうとしたり、
ありとあらゆる日常行動を、それが病気の原因ではなかったか確認したり
どうも、いらっとさせる言動を繰り返していた模様。
先生も怒ったというのではないと思う。
こういう緊迫した閉塞的な状況では、叱られたような気になるのだと思う。
お母さんは、「私、よっぽど頭が悪いと思われてると思います」
と言うので、まあ仕方のないことだと、私は思ったのだけど、
そのとき思い出した。私も!
あゆみが救急車で搬送され、集中治療室に収容された夜
インフルエンザ脳症だと告げられ、その説明を受けた。
そして初めて集中治療室の中に面会に入れてもらえた。
すでに人工呼吸器を装着され、ひと目で重症とわかる姿を前にし
私は担当医にしきりに、こう訴えた。
私 :先生、ビスケットが原因じゃないですか?
先生 :???
私 :意識を失う1時間前に、この子、ビスケットをたくさん食べたんです。
それが、飲み物も飲まずに、ビスケットばっかり。
私気になってたんです。そんな食べ方して、のど詰まらせないか。
ビスケットがのどに詰まったんじゃないでしょうか?
先生 :あのね、さっき説明しましたよね、インフルエンザ脳症。
私 :やっぱりあのとき、お茶を飲ませるんだった。
あー、いつもそうしてたのに。
先生 :いや、だからね、
私 :あー、なんであのとき〜!
先生 :とにかく、ここでそういう話しても仕方ないので。
(と言われ、私、集中治療室から出されてしまう)
あとで考えて、私どれだけアホと思われたことか、とおもった。
難しい説明に理解が及ばない、ということもあるのだけれど、
一体どういうこと?なんで、なんで?うそでしょー
という混乱のるつぼに追い込まれると、
頭の中は混線しているようなもので
自分でも、なんでビスケット?と、後からどう考えても、おかしい。
付き添うお母さんに、
それがふつうの母親だと思う
と話しながら、私自身の封印が1つ外れたのを感じた。
過酷な場面の記憶は、長い間、意識の裏のほうに押し出しておき
そうして自分を守るように、人間って作られているのだろう。
今となっては、どんなことでも、
あゆみにまつわる記憶が、1つ戻ってくるだけでうれしい。
心の傷口さえ、思い出の貯蔵庫に思える。