一生引っ越すことは無理と思えた日々

2020/05/27

あゆみのお葬式のあと、

お礼の挨拶になかなか回れなかったことが、

気に入らなかった隣の奥さんに、これ以上むり~

となったことは、この日記にも書いたが、

日に日に、そこに住んでいることがつらくなっていった。

 

台所と寝室の階が違うことが、間違いだった

という悔いが募ったことが、一番の理由だった。

家を売りに出すために不動産屋に行くと、

買値よりもかなり低い値段を勧められたが

引っ越すことしか頭になかった。

 

それでも売れず、2回値段を下げる。

ようやく、買い手が付きそうになったとき、

隣の奥さんがやって来た。

 

「坂下さん、言っておくけど

この家を買おうという人が来たら、私、

子どもが立て続けに亡くなった話はするからね」

 

何を言われているのか、よくわからなかったが

足が震えていた。

 

「だって知らずに買う人が、気の毒でしょう。

知ってて知らん顔は、私はできないから」

と言う、真剣な鋭い目が、ものすごく怖かった。

 

「あゆみも、前にいた男の子も、

この家で亡くなったわけではないです」

と私が言うと、さらに恐ろしい言葉が返ってきた。

 

「そういうことじゃないの。

縁起が悪い、ということ」

 

背筋が凍りつく私から、さらに言葉を奪ったのは

「あなたは、されると嫌なことを、人にはするの?」

という問いかけ。

 

されて嫌なことは、人にはしない、ということは

私自身、大事にしていること。

私は、前に住んでいた亡くなった男の子のこと

そんな風に思たことなどない、とこの人に言っても

何にも伝わらないと思い、言葉を呑んだ。

 

小さい子どもがいる人や、若い夫婦は、

この家は買ってはいけない、と主張していたが

年配のご夫婦が買ってくれることで、

ようやく引っ越すことができた。

 

私は、よく「真っすぐだね~」と人から言われる。

この言葉、言われていやな言葉ではないが、どきっとする。

その都度、自分に言い聞かせる。

思い込みで突き進んではいけない。

人の意見を聴く耳が大事。

思い込みの正義感ほど、怖いものはないから。