「お母さんをたすけてください」と頼まれた日

2024/06/21

子どものグリーフについて

看護師さんたちと話し合う中で、

忘れることのない一人の中学生の話をした。

きっかけは、

重い病気や障害をもって生まれた赤ちゃんの

きょうだいのケアが十分ではないことや

その子たちが大きくなってからのことは

分からないから気がかりであることや、

重い病気や障害の先にある死別後のことは

自分たちは、もっと分からない

という思いを聴いているときだった。

 

私が出会った淳君は、

中学校からの依頼を受けて

授業に行ったとき、大勢の、学年全員のなかで

彼とだけ何度も目が合った。

彼はずっと私を見ていて、

食い入るように話を聴いてくれていた。

 

不思議でならなった。

私の話は、基本、悲しいことが発端で、

おもしろいところは、ない。

 

終わって、帰る前に校長室にいたら

坂下さんと話したいという子がいます

と連絡があり、え?なんで?

と思っていると

来てくれたのが、ずっと目を離すことなく

話を聴いてくれていた彼だった。

 

開口一番

「お母さんに会ってください」

と言われ、私はポカンとなる。

 

「お母さんを助けてください」

と言われ、私の口はあいたままになる。

 

中学生の男の子と話したこともなく

その真剣な、真っ直ぐな眼差しに

思考が止まった感じ。

 

彼の目から涙があふれるのと同時に

絞り出された言葉は

「妹が亡くなりました。」

 

私はお母さんに会います、と約束し

お母さんの連絡先を教えてもらった。

(つづく)