憧れの修学旅行、思い出のホテル。
2009/06/06 Sちゃんのお母さんから「涙は出ないんです」と聞いたとき、
私はとても胸が痛んだ。
涙は、出たほうがいいし、たくさん流してほしい。
でも、私にできるようなことは何もなく、
そのとき心に決めたことは、
この人が、少しだけでも楽になれるまでは、この人といたい。
ということだけだった。
ときどきお家を訪ねると、
生前のSちゃんの話を、たくさんしてくれた。
私たちは仲良しになり、お母さんは、夢を語ってくれるようになった。
ささやかだけど、ちょっとムズカシイ夢。
それは、修学旅行に行くことだった。
私は、前後の見境もなく、「行こう!」と言った。
お母さんは、小学校に行き、
元担任の先生から、修学旅行のしおりをもらい、
実際に子ども達が行ったとおりのコースをたどって行く計画を立てた。
朝の5時、
私の家に迎えに来てくれた、お母さんが運転する車に、乗り込んだ。
しおりどおりに進み、見学し、休憩し、食事した。
あいにく午後からは、大雨になってしまったが、
Sちゃんのお母さんの、どこにそんな元気と勇気があったのか、
思いもよらないパワーで、ハンドルを握り締め、
嵐の中を突っ切った。
目指すは、6年生の一行が泊まったホテル。
食事も、当日出されたものと同じメニュー。
お母さんは、ぱくぱく食べた。
Sちゃんが食べるように、食べた。
修学旅行先で、一酸化炭素中毒のために、
一人の方が亡くなったというニュースが目に入ったとき、
まさか、と思ったが、
Sちゃんのお母さんと、私の、大切な思い出のホテルだった・・・
とても残念に思う。
こういう会(子どもを失った家族の会)をしていることに、
さしたる理由はないし、目標など定めてはいない。
ただ、Sちゃんのお母さんのような人の目から
ほんとうの涙がこぼれ落ちる瞬間に
自分が居合わせることができる。
そういう幸せが、忘れられないからなんだと思う。