隣のあいちゃん 観察日誌

2009/06/12

カランコロン カランコロン
と聞こえてくるので、
ベランダに出て、音のするほうを見てみたら、
お隣のガレージの中で、ハイヒールのパンプスが歩いているではないの。
お隣のベランダのでっぱりが死角になって、よく見えないのだけれど、
パンプスだけが歩き回るわけがなく、
パンプスの中には、ちっちゃな足が入っていた。

あっ いた!と思い、
あいちゃ〜ん!と呼びそうになったが、
めったに顔を合わさない私は、いつもあいちゃん(2歳)に逃げられてしまう。
隣の住人は、やけにアタシに関心を示す、不信人物
と思われているようだ。
ここは声などかけず、黙って見ているほうが面白いと思った。

お隣の玄関ドアは、開いたままで、
ママは、銀行さんらしき人と、中で話しこんでいるらしい。
パンプスを履いて出られたことにも、気づいていない模様。
専業主婦のママにとって、あの手のパンプスは、特別な一足と思われる。

あいちゃん、かかとの高いくつ、履いてみたかったんだねー。
でも、カクン、カクンと踏み外すものだから、
このままでは、靴のかかとも、横も、
傷だらけになってしまう・・・

ママを呼ぼうか、もうちょっと見ていようか、
私のなかで葛藤が渦巻いた。
もうちょっと。もうちょっとだけ。と見ていると、
あいちゃんが、カランコロンと、ガレージから屋外に出てきた。
すぐ上に私の目があることには、気づいていない。

次にあいちゃんが向かった先は、水撒き用ホースが巻いてあるところ。
ホースを引っぱり出すと、ホースの中に残っていた水が、
パンプスの中に、ジャー。
うわ〜〜 もうここまでになると、ママを呼んでも、すでに遅し、かも。

子どもの頃、靴の中に水が溜まると、
気持ち悪いけど、ピチャピチャ音がして、面白かった感触が蘇る。
あいちゃんは、もっと水を出したい。
こんどは蛇口を握った。
しかしあいちゃんの力では回らない。
両手で蛇口と格闘する。
見ていて飽きない。面白すぎる〜

ほどなく、
濡れて冷えたからか、
蛇口に力をこめたからか、
私の耳に、かすかに届いた。
「まま、うんこでた」。

ええーっ!ほんとに?
いま家の中に連れ戻されたくはない気持ちを表すかのように、
ビミョーな音量だったが、確かに、そう言った。
と、そのとき、
片方のパンプスが脱げ、それと同時に、
あろうことか、着いてしまった!
しりもちを・・・

ただ事ではない。
に、も、か、か、わ、ら、ず、
あいちゃんは、何事もなかったかのように、
我が家の庭からお隣に茎を伸ばしている、赤い花のところにやってきた。
これは、父が大事に咲かせている花。

でも別に私が手間隙かけたわけではないので、
ちぎっていいよ〜 なんて見てたら、
あいちゃんは、背伸びして、ぐぁし。と花を握った。
でも、引き寄せただけで、むしり取ろうとしなかった。
驚いた。2歳でも、感じるんやあ・・・
かわいそうとか、痛いだろうとか。

握り方に加減を知らないので、花びらは半分散ってしまったが、
「命だけは、どうかお助けを〜」の訴えを、聞き入れてもらえた赤い花。
危機一髪のところで、命拾いした。

この後あいちゃんは、
はだしで、家の中に消えていった。
ママの、ギャーとか、ワーとか、という声は聞こえてこなかったので、
これら一連の出来事は、お隣にとって、日常のことらしい。

2歳・・・ 一番大変なときだろうけど、羨ましい。
私もしてみたかったなー 女の子の子育て。

庭に転がったままの、ママのパンプス。
もう大事なお出かけには履いて行ってもらえないね・・・。