「この世で一番大切な存在」をうしなっても

2023/12/12

「〇〇との思い出を背負って生きていくくらいなら

死んだほうがいい」とは

一瞬、私が耳にする母たちの言葉に似ているようで

中身、まったく違った。

これは裁判で語られた被告の言葉で

〇〇とは「母」。

 

母親の主治医に恨みを持った息子が、

母親の死後、主治医を監禁して立てこもり、

射殺した事件、記憶に新しいが、

裁判員裁判が行われた。

 

自宅からは、

びっしりと文字で埋まった数百枚のメモ用紙が見つかり、

母の体温、便の回数、血圧、クリニックとのやりとりなど

細かく記録されていた。

このあたりも、母の子への看病と重なるようだが

この被告(息子)の母親は、認知症を患っていた。

息子の姿が見えなくなるとパニックになって

大声を出すこともあったという。

そのため生活時間の全てを母の介護に捧げ、

母の死への喪失感から凶行に及んだと考えられている。

 

主治医への恨みを決定づけたのは

テレビで見た間違った情報だったようだ。

「人間は心肺停止しても72時間以内であれば

脳機能はそのまま生き続けている」

と認識した被告は、母が亡くなったとき、

主治医に蘇生措置を要求した。

主治医は息子の気持ちに添って強心剤を注射したが、

心臓マッサージはしなかった。

このことが被告の恨みを募らせたようだ。

 

遺体に強心剤、だけでも驚きなのに・・・

 

被告人質問で、

「母親はどのような存在か」と問われた被告は

「この世で一番大切な存在」と言い切った。

このことに不思議はない。

一番大切な存在に年齢は関係ないから。

 

でも、思ったのは

私が出会う「この世で一番大切な存在」を失った母たちが

喪失感のあまり頭がおかしくなって

人に恨みを募らせたり

立てこもったり

医療従事者を襲ったり

していないことが、当たり前のことであっても

こわれそうな精神が正常に保たれていることに

親、相当ふんばってる

と思った。