モ族の幸せな人々

2008/06/22

京大病院「にこにこトマト」機関紙に出した原稿です。

いのちの和と輪 「モ族の幸せな人々」

 友人の産婦人科医F子さんは、乳飲み子を含む6人の子もちで、人に幸せを配達することを副業としている人です。
まず、私が6人目の存在を知ったのは、昨日です。
今年もらった年賀状には5人の子どもに囲まれる夫婦の姿があり、F子さんの腕の中には1歳になったばかりの子がいます。
この写真を手にしたとき、ジーンときたものです。
こんな小さい子を抱えて当直もこなしているなんて…。

 現在、6人目は首が据わった頃で、やっぱりF子さんは当直します。
医師不足のために、産婦人科が危機に瀕しているという情報は頻繁に耳に入りますが、産科医たちは体を張ってお産の現場を支えているのですね。
それは厳然たる事実ですが、F子さんは至って陽気で、仕事と生活と育児をあっけらかんとやってのける姿に、私はほとほと自分が根暗に思えます。

 悩みは尽きず、息子がクラスで35番の成績をとってきたことを話しました。「怒ったらあかんねんよ。5人も下にいたら、だいじょうぶって言ってあげて」とF子さん。
はぁー、という感じですが、
「モ族になって」と言うのです。
モ族とは、5人を5人「も」と考える種族のことです。
5人しかいないと考える種族は「シカ族」だそうです。
モ族はどんどん幸せになるのだと、太鼓判を押されました。
「私もモ族になれるように頑張るわ」と言いましたら、
「頑張ったらあかんよ。紙と鉛筆ある?顔という字と晴れるという字を書いてみて。『顔晴る』というのは、こうやで」と、また一つ教えてくれました。

 電話を切り、そうかーとうなづいていると、
「35番ちゃうやん。32番やって先生に電話しといて」と息子が言うので、
35でも32でも同じようなもんやと私は思ったのですが、
「お母さん何言うてんの。10倍してみい。350番と320番やったら30番も違うねんで」と息子。
その余裕の表情はいったいどこからくるのか?
モ族と同じ屋根の下に暮らしていたことを、昨日までよく分かっていませんでした。
モ族の一員になれば幸せになれるらしい。というお知らせでした。