もう前しか見ない覚悟の人

2019/08/09

初めてデイルーム(休憩室)に行ってみた。
誰もいなくて、大きなテレビを一人で見ていたら、あとから来た患者さんが声かけてくれた。
私が、見るも哀れな装具を着けているので、大変そうですね、と。
けれど私は、その人の身の上に起きたことにショックを受ける。

その人、片手が動かない。
もとは骨折というので、思わず、骨折で?と聞き返す。
骨折の手術の際、破損された部位をもったまま悪化をたどり、この病院で再手術という。退職も経て。
何ということ。

ところが、この病院への感謝と、治ってからの夢の話しかされない。
確かに、とてもよくしてもらっている様子はわかる。
私は、聞きながらフシギな感じがしていた。

そしてフシギにまつわることが語られた。
「最初の医者を訴える道もあるんです。でも、とにかく私は、手を治すことにエネルギーを投入しないと」

この人を前に「私も」からは言い出せず、「私は」と話した。
「私は、ぶつかってきて怪我させた人は、すぐに謝ったからあんまり腹立っていないけど、でも最初に診た医者は、まともに言葉も聞かずに偉そうな態度で誤診した、そのことのほうが腹立ってます。」

「すごくわかります」と頷かれ、でもね、と続く。「あなたも、それを言いに行かなかったですね」

ええ。ああいうタイプの医者の態度が変わると思えない。
行ってグサグサされたら、さらに身の置き所がなくなるし、気持ち落ちてしまったら、治す気力も失せてしまうし。

確かに思うことは同じだけれど、私の誤診とあなたの手術ミスでは、関与度合いが違いすぎるではないの。

その人、「今の主治医は毎日病室を訪ねてくれます。そして必ず励ましてくれるので頑張れます」というのは、すごいと思った。
私の主治医、時々だし。

このあと私、失言してしまう。
「先生親身になってくれてよかったですね。気の毒にも思ってくれてるかもしれない」
すると
「やめてくださいよ、気の毒だなんて!」
あっ・・

失礼なこと言ってしまい、謝る。
なぜ謝罪や賠償を求めないのだろう。職まで失ったのに!という本音があらわになったのを感じた。
これまで何度気持ちを立て直してここまで来られたことかと、途方に暮れるような道のりを思う。