感情は固めておかなければ身が持たなかった

2024/03/17

あゆみと暮らした家は

大阪市内でも昔ながらの慣習を残しており

お葬式となると

町内会の女性たちが集まって手伝いが始まる。

手伝いといっても特に用事はなかったが、

うちの台所で煮炊きが始まった。

 

出来た食事は私達に勧められるが

私達は食欲がなく、食べられない。

それとは別に

手伝いの人たちの食事も作られ

これ、作った人たちで食べる。

 

なんでうちの台所に人が集まり

炊事をしたり、食事をしたりしてるのか?

ワケがわからんかったけど、

隣の奥さんが、私に任せとけば大丈夫、

と言うから任せておいた。

 

で、後で買い物の請求が届き、

払って終わった、と思っていたら

しばらくして隣の奥さんがやって来て

手伝いに集まってくれた方々に

挨拶に回ったのか?尋ねられて

えっ、となる。

 

回っていないこと、百もご承知。

だって隣の奥さんの所へさえ行っていない。

 

はぁー

手ぶらで行くわけにもいかず

御礼の品を買いに行き

誰が来てくれていたのかさえうろ覚えのまま

ふらふらと御礼を言いに回った。

 

あゆみが脳死宣告を受けてからは

何ごとも淡々とこなした

と書いたが、それもこの辺りまでで

私はこの頃から底なし沼に沈んでいく。

 

自分は冷たいんかなあ

と思ったりしていたのは

感情がフリーズしていたのだな。

起きていることがよく理解できなかったのか、

固めておかなければ身がもたなかったのか。

 

あゆみはどこへ行ってしまったんだろ、と

ぼーっと、ふらふらしているところへ

隣の奥さん乗り込んできてから

辛いと、情けないと、しんどいと、鬱陶しいが

入り乱れ

もう誰にも会いたくなくなった。

(つづく)