その後一度も言ったことのない言葉

2024/03/19

あゆみを亡くして間もない頃に戻って、

優しくしたくて仕方ない隣の奥さんと、

勘弁してほしくて仕方ない私が

隣り合わせで暮しているのだから

もう一歩も外に出ないようにするしかない。

 

何日か過ぎて

生ゴミの日、玄関から顔を覗かせると

表に人の気配はなく

そっとゴミを捨てに行くことにした。

 

そしたら!

そっと出たのに隣の奥さん出てきて

いきなり

抱きしめられた。

 

私は驚きのあまり

硬直してしまう。

 

この抱き締め、とても長いものに思え

そう思いながら、もう1つ感じていたのは

隣の奥さん、やや陶酔している。

心優しい自分に。

 

離してほしかったけれど

期待を裏切ってはいけないように思え

じっと立っていた。

 

この時言われた言葉も

私はいやな言葉になってしまう。

「いつでも聴いてあげるから。」

 

「聴いてあげる」という言葉、

私はこのあと一度も言ったことがない。

 

このときのことがなかったら、

言っていたのだろうか・・・

その後出会うようになる

抱えきれない辛さを抱え持つお母さんたちに

この言葉。